ある商店主からの手紙

(又信東京50号より)

又信会会長
榊 久雪
(経済1回)

又信会運営に対する皆様のご支援に感謝し、拙文を寄稿させていただきます。
わが坂出市の商業事情の変遷は常に念頭から離れぬ事の一つですが、商業特に小売商業の振興施策には商工会議所の代表者として思いを重ね悩み多い当今です、そんななか或る商店主との感動的な出来事を語りたいと存じます。

懸命に「商い」を続けている某君が先日突然私の会社に来訪し、深刻な相談を受けました。「夫人に商いを任せ自分は就職したい」と言うのでした、人柄を知るだけに思いの深さも胸に響き、「何なりとも相談に乗るよ」と確約、私は彼なら躊躇せず受け入れてよい(有能な人柄に感心していたので)と直感しました。しかし数日後、彼からの次のような感動的な手紙を受け取ったのでした。

それには丁寧な言葉で、「お願いして帰り、もし採用していただけることがあったら、店にある商品とも お別れだなあ、と思いつつ店内を巡っていますと、その一つ一つの商品が私に微笑みかけてくれました。それは一個の商品と言うより私の小さな子供達のような表情なのです。こんな感慨は初めてで、その瞬間に私は小さいながら、この商品達から離れては生きてはいけないと感じたのでした。」

「もし採用していただき御社でお世話になっても、その事が頭から離れず結果に御社の為にならないのではと気付きました。そちらの仕事に専念でき御社の為に頑張るためには商売を全く断念せねばなりません、それでこそ初めて為しうる事だと気付きました。」

「そしてもう一つ、小さな店ですが、その主人が本業を女房にまかして転職することは様々の面から信用を落とし、危機的状況を速めると気付きました。以上のことから、もっともっと頑張ってみたいと決心しました。勝手なご無理なお願いしておきながら、こんな返事を差し上げる無礼・非礼をお許しください。」

「お願いに参上して、話を十分に聞いてくださり、前向きに検討すると言っていただいた時は涙が出るほど嬉しかったです。会長の優しさに心から感謝しています、ありがとうございました。」

目頭を熱くしながら、この手紙を何度も何度も繰り返して読んだ私は、彼が商品の一つ一つに微笑みかけられ、心を通じあっている姿を想像し、「商いを愛し、家業を大切にする心意気」に感動、何でも時代のせいにした逃避をせず、真に商いを愛している商人の心意気を感じ取り、「仕事を愛せる君こそ、わが社が真に求める人材なのだ、何時でもお出でよ」と胸熱くして、精一杯頑張れと応援する思いが燃え立って止め処ありませんでした。当今の坂出市地域の小売商業を取り巻く環境条件は年毎に厳しくはなっていますが、商いを通じて時代に対応する努力を模索し協力一致して頑張ろうと叫びたくなったのでした。心意気に共感、涙腺の熱くなる思いで語ったのを、ご容赦願います。